サッポロ珈琲館

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エチオピアに1週間ほど出張したのは、もうはるか昔のことである。
成田からバンコクに飛び、エチオピア航空に乗り換えていったんムンバイ(ボンベイ)に立ち寄り、
飛行機はエチオピアの高地を見下ろしながら、アジスアベバの空港に着陸した。

アジスアベバでは4泊した。街の至るところに軍人が銃を携行して警戒警備に当たっている。
治安は良くないから、街を適当にぶらぶらすることもかなわない。

泊まったヒルトンホテルの中庭には豪勢なプールがあって、その周囲には大きく育ったブーゲンビリア
で覆われていてその赤が鮮烈だった。

ホテルから少し離れたところに珈琲店があった。丸いテーブルが配置されているが、椅子はない。
床は原木を削ったようなしっかりした板が使われている。蝶ネクタイのボーイさんがオーダーした珈琲を運んでくれる。フルーツケーキを食べながらその珈琲を飲む。

エチオピアは珈琲の発祥の地という。どの種類の豆なのかは分からないが、野性味が感じられる珈琲でうまい。毎朝通ってそこの珈琲を飲んだ。

それから数年後、北海道のとある小さな町に、サザンクロスという喫茶店がある。珈琲を頼んで飲むと、エチオピアで飲んだ珈琲の味を思い出した。マスターに、この豆は「エチオピア」ですかと聞くと、うちはエチオピアしか出していないと言う。ただ、きちんと淹れないと本当のおいしい味は出ないという。

それからしばらくして札幌に転勤となった。琴似駅の北側に趣のある建物の「サッポロ珈琲館」という喫茶店があり、珈琲を飲みに行った。ストレート珈琲に「モカ・マタリ」があった。800円近い値段で、少し高いのではないかとは思ったが、飲んでみるとそのうまさにショックを受けた。

そのうち中国地方の割と大きな都市に転勤となって、おいしいコーヒーを探し続けたが、サッポロ珈琲館のうまさに迫る珈琲には出会えなかった。また、東京に戻ってきたがどこも似たり寄ったりの個性のない味の珈琲ばかりであった。

あるとき、勤務先の自分の部屋に消味期限切れとなったサッポロ珈琲館のコーヒー豆「モカ・ジンマ」を大きなグラスに入れ応接のテーブルに置いておいた。アメリカ人の来客がその豆の匂いを嗅いで「エチオピアの豆ですね」と言ったときには恐れ入った。

サッポロ珈琲館でおいしい珈琲豆に出会ってからは、これまで一貫してコーヒー豆はサッポロ珈琲館から定期的に購入しているが、最近は注文の際、山に登ったときの写真をはがきに印刷して出すこともある。

今日、注文の豆が届いたが、添え書きにこんなことが書かれていた。
「前に送っていただいた日高山脈カムイエクウチカウシ山(?)のキキョウの写真ハガキを店内に置いているのですが、来店されるお客様から『この場所にはなかなか行けない』と言われたり、わざわざ何度も見に来ていただいて地図まで調べたりと反響があります。私も始めは縦に見るのか横で見るのか『?』と思って構図にアッとなりました。実は本日も『車で待っている主人に見せるから貸して』と言われました。」