奥多摩駅への途次の中央線のホームで (2015)

2015/ 2/13~14 
奥多摩/タワ尾根~酉谷山避難小屋への途次で

 早朝、青梅駅行の電車を西国分寺駅で待っていた。大きいザックを背負っていることもあって、人の少ない車両で座って乗るために列に並ぼうとしたら、若い勤め人風の男が目の前をするりとかすめて並んだ。「いけ好かない奴だなぁ。」 こんなときは環境を変えることにしている。背中のザックをぐるりと回し踵を返すと、ザックが男にガツンとぶつかった。

 その電車で終点の青梅駅に着き、奥多摩駅行の電車を待つ。整列乗車のホームで、これまで悪いことはしたことがないという風情を漂わせた中年の男が2列に示された場所の真ん中に位置している。その意図は明確だ。男の左側に立つ。電車が入ってきてドアが開き、乗客が下りかけた時に男は左奥のシートの端を狙って電車の中に入るが、一瞬下車する者とクロスしてもたつく。それでも体勢を立て直しダッシュしようとするので、ザックで男の左体側をブロックしその席を占める。

 帰路の奥多摩駅からホリデー快速「おくたま」に乗るためホームに並ぶ。右側に「私はボランティアをやっていますのよ。」「NPOで活動しているの。」とでもいいそうな雰囲気の初老の女性が並ぶ。電車が入るとどどっと人が入る。左側に並んだのだから左手の座席を目指すと、その女は右手から左に移動しつつ前に出て、目指した席に「おほほ」とでも言いたげに着く。そこは3人分に仕切られたシートで女の隣、真ん中に座る。大きいザックだったので端に座りたかったが仕方ない。足を大きく広げ70リットルのザックを囲みこむように座る。

 持ってきた曽野綾子の「生きる姿勢」を読む。女も文庫本を広げているが、すぐコックリコックリし、ちょっと読むとまたコックリする。本を読み進めると曽野は「一人の美老女が一鉢の枝垂れ梅をタクシーに載せて現れた。」と書いている。

 この醜老女も馬鹿ではない。こちらの雰囲気を感じ取ったのか空いた向かいの席に移った。そのとき、女が移動して空いたその席に男性が軽く会釈をしながら座ってきたので、「どうぞ」と言って少しよける。
 それまでの女の行動を説明すると「一人の醜老女が自分を知る人のいない公衆の中ではしなくも心根を表した。」ということか。