ペテガリ岳~コイカクシュサツナイ岳縦走 第3日目(2005・8・1)

第3日目 Cカールへ・8月1日
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(ペテガリ岳西尾根コースからの頂上)


山荘の雰囲気がいい。霧も濃い。5時出発の予定がのんびりしているうちに7時となってしまった。霧のかなたに薄日が見えてきたので腰を上げる。しかし、この遅れの差は大きい。山荘で水を4.5リットル汲んでザックに入れる。山荘を出て木々に覆われた登山道に入るとすぐに急登となる。一気に600m登り、ついで250m登るのだからしんどい。登っては下り、登っては下ること7回でやっと1301mのコルに着く。

時刻は12時22分、1293mで携帯電話が使うことができる。無事メールを入れておく。最初の登りで捨てようと思った2リットルの水もすっかり飲み切ってしまった。1301mのコルでは予備に持参した水しかない。天候がすっかり回復して温度が上がり、発汗が著しい。それにしても暑く、水の消費が激しい。Cカールでは間違いなく水は取れるだろうと、予備の水を飲みたくなるが、状況の変化次第ではまさに命の水となるので、あと何時間かかるかは分からないがCカールまでは水を飲まないことにして我慢する。

16時16分、やっとの思いで3度目のペテガリ岳山頂に着く。あまりにもスローペースだが、縦走装備の重いザック、激しいアップダウン、長い尾根筋に体がついていかない。去年までしっかりくくりつけられていたペテガリ山頂標識がひしゃげている。冬季厳間の厳しい環境がしのばれる。山頂からは、南に神威岳、北にこれから向かうヤオロマップ岳、あこがれの1839峰などの山々が一望できる。
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(Cカールへの稜線はガスの中)


 今回のお目当ての花のカムイビランジはCカールまでの稜線にしか咲かない。この花をカメラに収める時間がなくなる。やむなく山頂を後にしてCカールへと急がなければならない。
 2004年8月にもカムイビランジを見るためにペテガリ岳に来た。ちょうど同じ時刻のCカールへの稜線でヒグマに遭遇した。神々の山に棲むにふさわしい風格を備えたヒグマであった。
 退却を余儀なくされた1647mの先を無事に通過し、ハイマツを乗り越えながら先に進んで岩場交じりの細い尾根に出ると、急にカムイビランジが目に飛び込んできた。カムイビランジとの初対面である。
 おりしも天候は悪化に向かっていて、強い風が日高側から吹き付けてくる。太陽もすでに西に傾いていて撮影の条件としては最悪だが、その仕上がりはともかく、デジカメとフィルムカメラにその美しいカムイビランジの花を収める。
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(ガスが少し上がって憧れの1839峰が遠望できる)


 カムイビランジは岩の長い裂け目に一列に並んでいる。適度に保水される岩場の裂け目に溜まったわずかな土壌に根を下ろして咲くカムイビランジは、この後の長い稜線のどこにもなかった。
 17時54分、あと20分でCカールに到着するとのメールを発信し、Cカールへと下りる目印がある1535mに着く。その目印は古く色褪せている。ハイマツをくぐって何度もスリップしながら、すっかり暗くなった急斜面を足で探りながら下りていく。
 分岐の斜面からCカールの底まで高山植物が覆っている。ようやく着いたカールの底にはヒグマの気配は感じられないが人もいない。テントを張ることができる場所が2か所ある。いずれもチングルマの花園の真っ只中である。
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(固有種のヒダカゲンゲがここにだけ咲いていた)


 すっかり暗くなってしまっているからテントを張りたいが、何を差し置いても水の確保を最優先し水場を探さなくてはならない。情報では、テント場を右に進んで5分ほどで水場となる。そのとおり進むと雪渓下部に至る踏み跡がある。しかし、まだ5分もたっていないことからこの場所ではないとさらに高度を下げてハイマツのトンネルを進んでいくと、岩場の間から水が湧き出ている。
 何度も何度もコッフェルに水を貯め飲む。日高と十勝の稜線を分けて伏流水となって湧き出た水は冷たく、何時間も水を我慢した乾いた喉を潤してくれる。プラティパスに十分水を入れる。
 すっかり夜の帳は下りてしまった。誰もいない真っ暗闇のカール底のテント場に戻りテントの設営を急ぐ。冷たい水でウィスキーを割って飲み、軽い食事をする。上を見上げると星空が綺麗だが湿気がありそうだ。