無名碑~曽野綾子

「普通の男は、人生の前半に孜々として働き老いぼれて体のきかなくなった頃に、やっと休む。しかしその頃には、何を楽しむこともできないないのだ。心も体も弾力を失ったゴムのようにぼろぼろになった年で、何が老後の楽しみであろう。」
曽野綾子は、自身は登山はしないが著書の中でしばしば登山に例えて物事に触れている。

「無名碑」は只見川に作られた田子倉ダムを題材にした小説である。ダム建設に伴う極めて高額な立ち退きの補償額が田子倉ダム補償事件として社会問題化し、事件は、土地収用法による強制収用に発展したが、住民の抵抗などについてはさらりと流し、工事に携わった数多の工事関係者を称揚しているのは、「湖水誕生」と同様である。

「湖水誕生」や「無名碑」を読むと、前長野県知事の「脱ダム宣言」を批判する同氏の理由が明解となる。