負け犬の遠ぼえ 南アルプスの山の中で (2015)

2015/ 9/19~24

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1泊目:赤石小屋テント場

 椹島から出発し、1日目は赤石小屋まで、2日目は稜線に上がり赤石岳をスルーして高山裏避難小屋まで、3日目は小河内岳避難小屋に立ち寄り三伏峠小屋まで、4日目は塩見岳を登って蝙蝠岳まで、5日目は徳右衛門岳を経て二軒小屋ロッジに宿泊、6日目は椹島ロッジ経由畑薙ダム臨時駐車場までの5泊6日の登山であった。

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2泊目:高山裏避難小屋テント場
 これほどの贅沢な日程の登山を行うことができることはそうそうない。ましてやこれからは体力の減衰もあろうし・・・。そういえば今回、山で会ったおば(あ)ちゃんが「男の年寄りは体温調整ができないから低体温症になりやすい。」と言っていた。「そうですか。」

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3泊目:山伏峠小屋
 
 アプローチの日の夜の、車の運転5時間だった。夜明け前に睡眠2時間というのがやっとで、早いうちからバスの順番を待つ。このことが1日目の登山中にボディブローのように効いてくる。非常にきつい。林道を車で走っている夜間、日付が変わっても安保法案の参議院での採決に向けた演説が行われている。安倍奥の山間部でも東京からの電波でNHKラジオはほぼ明瞭に聞くことができる。
 もう真夜中だと言うのに、民主党の福山某が演説を行っている。「武士の情けで聞け」というようなことを言って激高している。そうかこの人も「武士」だったのか。武士の情けというのは不始末をしでかしたことについて目をつぶってくれというような意に用いられているらしいが・・・。

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4泊目:蝙蝠岳頂上直下テント場
 
 あまりにもつまらない質疑を聞いていて、睡魔が襲ってくる。安倍奥の山の中の道は狭くくねくね曲がっている。そこは何とか切り抜けたが、井川の集落を過ぎたあたりのところで、あやうく右側のガードレールに衝突寸前で覚醒する。  

 山は6日間とも午前中は素晴らしい天気であった。最終日に泊まったのはあこがれの二軒小屋ロッジであった。チェックインの時間までロッジの芝生でビールを飲む。

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5泊目:二軒小屋ロッジ

 下山後、長い林道を歩いている交通の足のない登山者を一人、また一人と拾ってJR静岡駅まで送り届けてから東名高速に乗る。静岡駅までも、静岡駅からも長かったなぁ。先に拾った人は3泊目の山伏峠小屋で『降下りた時の足がない』というトレラン青年で、もう一人は下山後の公共交通機関の便をよく調べてこなかったご婦人であった。しかし、考えるところがあって、もうボランティア精神を発揮するのはやめよう。日本人も変わってしまったものだ。

 帰宅した後、すぐ6日間の新聞を読む。登山家の野口健さんがコラムで「『強行採決』という言葉は負け犬の遠ぼえ」と書いている。登山はリスクのある遊びである。ましてや国を守るために身を挺せんと自らの自由意思で入隊した者が、「リスクがありますから戦いません。」と言うのなら、武士ではなかろう。登山も同じ。登山に大きなリスクはあるが、細心の準備と慎重な行動、人によってはパーティを組んでそれらリスクを最小化させようとしているのである。