登山と放射線 ~岳人2013年3月号から~

中日新聞社が発行の山岳誌「岳人」が2013年3月号で、特別企画として標題の特集をしている。
その中身と言えば相変わらずで、
曰く、「山で線量調査継続」
曰く、登山者団体の責務として」
「福島登高会・和泉功さんに聞く」
曰く「線量率が高い藪の中は避ける」
etc.
中日新聞東京新聞)が反体制・反自民・反安倍の媒体だとは知りつつ、
岳人はたまに面白い編集をするので購入するときがある。
 
しかし、岳人もいつまでも「放射線」と「登山」を絡めた記事で部数拡大の商機を得ようとすることはよした方がいい。今月号では「高山の原生林を守る会」などという肩書を用いたご年配の諸氏が、線量計を携えて山を歩き、原発再臨界にからめて福島の山には登りに来ないようにおどろおどろしく語っている。
 
ことこのようなことが福島に対する風評被害を煽り助長しているのであり、単純にこのような論調をうのみにする者が福島の農産物を水産物を観光地をそして甚だしきは人を、あるいは山を忌避することにつながっていることに頓着することはない。
 
中国の大気汚染が甚だしく、かえってこれによる健康被害原発事故とは比べようがないほどの惨状であることは覆い隠し、沈黙し、「原発」ということに語句のみに過剰に反応する人たちには、一度中国に行って思い切り空気を吸ってきてもらいたい。数メートル先が見えないほどの影響をもたらしている汚れきった大気が、中国国内に留まるのならそれでよし、しかしこの清浄な国に大量に汚れた空気が流れ込んでいる。
 
原発事故による放射線の影響は、福島のみならず各地に広がっていて、東京・奥多摩の山にも線量が高いところが存する。福島の山にも、線量が高い奥多摩の山にも行ったからと言ってそれがどれだけ健康に影響するのか、訳も分からず騒ぎ立てるほど愚かなことはない。今、日本人の死亡率の30%ががんで占められている。放射能とガン発症の因果関係をある程度分かった上での議論ならまだしも。その前に、発がんの原因となる大気汚染、アスベスト、喫煙、食生活などなど考慮すべきことは山ほどあるはずだ。
 
暇に任せた議論のための議論、ためにする意見は願い下げである。そもそも「・・・会」と名乗られると引いてしまうが、原発反対、脱原発の主張もよろしい。東北電力が家庭用電力の11.41%値上げを申請しているが、電気料金が今の倍になってもいいと言うのなら、そして火力・石炭火力発電がもたらす環境汚染を甘受すると言うのなら、その主張はよしとしてもいい。(が、すぐ値上げ反対の急先鋒になるだろう。ものごとに反対するのが仕事であり生きがいであろうから。)
 
表面的な正義を語ることは易く、受けもいい。
だからこそかえって胡散臭さを感じてしまうのはしかたがない。
その点を八尾恵さんは「謝罪します」の中で過去の所為を率直に詫びている。
八尾さんの本を読むと、脱原発は「獲得」のためのオルグと解するとよく見えてくる。
 
わざわざ線量の高い居住制限区域にある飯館村の「野手上山」に登って、それも2013年の今に、2011年の放射線量が「6.24マイクロシーベルト/時」だったなどと喧伝する行為はいわゆる「品格」に欠ける、ためにする言動である。ならば短い時間に浴びる6マイクロシーベルト/時程度の医療行為は受けないのだろうか、そうではないだろう。このような言動や報道に惑わされず、大らかな気持ちで福島の山に行こうではないか。
 
昨年、4日間安達太良山界隈を歩き、くろがね小屋に滞在した。くろがね小屋での温かいもてなし、吹雪の小屋での石炭ストーブ、登山者同士の語らい、そしてなんといっても源泉掛け流しの温泉三昧は癖になりそうだ。
 
(参考)
奥多摩・酉谷山避難小屋に1年間滞在したときの放射線被爆量について
安達太良山で線量が高いという雪を食べに行ったくろがね小屋宿泊記録